| 農家民泊体験記 文●堀内美緒さん |
●2002年4月2日晴れ
日差しがもう初夏のような、いい天気の日。綾部は桜が満開。
今日から3日間、待ちに待った農家民泊。今回お世話になるのは、綾部の北、五泉というところに住むキヌ枝さんのお宅。山に囲まれて、きれいな川の流れるいいところだと聞いていたので、ワクワク。
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里山ねっとの塩見さんに車に乗せてもらってキヌ枝さんの家に3時ごろ到着。本当に、山間の集落だあ。集落の真ん中を流れる川に沿って田畑が切り開かれて、山を背に家がぽつぽつとある。軒先にぶらさがった野菜。庭先に置かれた農具。何か、懐かしい風景。車から降りたらひんやりとした山の空気が気持ちいい。うぐいすの美声が山間に響いて歓迎してくれた。
「こんにちわー。」声をかけたら、裏から方頭をしたキヌ枝さんが現れた。気さくで明るい笑顔に安心する。 |
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■キヌ枝さん宅。屋号は「素のまんま」です。
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家に入って、キヌ枝さんの点てたお茶をいただきながら、少し雑談。お花の先生をしているキヌ枝さんの家は、ちょっとしたところに花が活けてあってとても素敵。
塩見さんが帰った後、一人で辺りを散策に出かけた。まず、家の脇を流れる小川を観察!チロチロチロチロ・・・きれいな水の流れ。次は、家の裏手へ。家の裏には数段畑があって、そこから眺める下の景色が里山的でいい感じ。段々畑には、蕗、つくし、スミレ、オオイヌノフグリ、ムラサキケマン、カラスノエンドウ・・・可愛らしい春の花の上をチョウチョウがひらひら舞って行く。最後に家の前方、集落を流れる川の向こう岸へ。川の水は透き通って本当にきれい。魚発見!沢蟹も発見!
外が薄暗くなってきたころ、家に戻った。
夕食前にお風呂に入った。キヌ枝さんちのお風呂は五右衛門風呂!私の祖父母の家でもお風呂は薪で焚く。でも四角いんだよね。湯船が。キヌ枝さんのところのはちゃんとまあるい正真正銘の五右衛門風呂。うちの祖父母のところのは五右衛門風呂と呼ばない、ただの「薪で焚くお風呂」なんだろうか。じゃあ、五右衛門風呂は今日が初めてってことになる。うわ、感激!
ここの五右衛門風呂は亡くなったキヌ枝さんのご主人が、薪がたくさんあるのだから変える必要はないとこだわって残したのだと言う。薪で温めたお風呂は体の芯まであったまるから大好き。(でも今日は温かいお湯が出たので薪で焚きつけはやらなかった。)
お風呂から上がったら夕食の準備ができていた。あったかい風呂から上がったらすぐ食事!何て贅沢!今夜のメニューは山菜のてんぷら。材料は、ヨモギ、三つ葉、ユキノシタ、ちくわ、サツマイモ、椎茸。ヨモギと三つ葉、ユキノシタは私が散策に行っている間に家の周りで採ったそうな。おいしい!春の山菜独特の風味が最高。
ほかにも家の周りで採れたもので作った、キヌ枝さん手作りのキャラブキやモロミ、白菜の漬物なんかが出てきた。キヌ枝さんは、「本当にあるものだけだけど・・・」と言う。でも、こういう自分のところで採れたもので作った食事って一番の贅沢だと思う。健康にもいいし。昔は当たり前のことだったんだろうけど。
夕食後は、キヌ枝さんと話が盛り上がる。
この家は明治23年に建てた、もともとは茅葺の家だったこと。(つまり築113年!)今、居間になっている部屋には昔囲炉裏があったこと。昔はテンゴリという助け合いの制度があって、屋根を葺き替えるときや田植えのときは近所で助け合っていたこと。ここに嫁いできてからの苦労話。
ここ4、5年ひどくなってきた猿害の話。すごいときは、40も50匹もの大群が降りてくるらしい。作ったものもみんな食べられてしまうので、本当に困っているとのこと。などなど。
最後は、環境問題にまで話が白熱。昔は家の前の川ももっと水量が多かったという。キヌ枝さんの家の裏山もそうなのだが、杉の人工林が結構目立つ。一時期、国に奨励されてここでもキヌ枝さんたちが苦労して杉を植林したんだそうな。それが、今は管理されずに荒れ放題。荒れた人工林の山では保水力が落ちるから、川の水量が減るのも当たり前だ。それに人工林に山の恵みをあまり望めない。猿が食に困って里まで降りてくるのも元はといえば人間のせいなのだろう。結局は日本の林業政策が間違っていたと2人の意見が一致。エネルギー問題、温暖化、森の放棄、後継者不足・・・もっと、本腰入れて環境問題に取り組まないと!それにしても、キヌ枝さんの前向きな考え方や生き方には頭が下がる。11時に就寝。
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2002年4月3日晴れ
7時半、鳥の声で目が覚める。外に出たら、「ピチチチ・・・ピチチチ・・・」鳥の大合唱!朝の空気のおいしいこと!朝食の後、キヌ枝さんは畑へ出かけた。私は、蔓でかご作りをすることにした。家にはキヌ枝さんがこの冬に友達といっしょ作ったという蔓のかごがたくさんあって、それがまた素敵なのだ。私も、残っていた蔓をもらってキヌ枝さんの作品をお手本に悪戦苦闘。意外と蔓がかたかったり、切れてしまったりして思い通りになってくれない。それでも何とか、お昼前には、腕をつけた大きめのかごと、小さめの長細いかごの2つ出来た。キヌ枝さんにも「初めてにしては、じょうず!」とお褒めの言葉をいただいた。
お昼ごろキヌ枝さんのお兄さんが来た。地元を取り続けて40年以上。綾部では名の知れた写真家さんだそうな。キヌ枝さんと一緒に玄関の前で写真をとってもらう。そのまま、一緒に3人でお昼ご飯。ご飯を食べながらお兄さんが原子力問題の話を熱く語ってくれた。五泉のある綾部の北部一帯は原子力発電所がある若狭湾から結構近い。原発事故なんて起こったらここも危険なのだ。しかも、ショッキングなことに事故があったら放射能が風に乗って琵琶湖を汚染する可能性が高いと言う。そうなったら私の住んでいる京都はもちろん、琵琶湖一帯が水を飲めなくなるのだ。想像したけでも恐ろしい・・・。今の便利な生活は実はとっても危険と背中合わせなのだ。それにしても、原発に関するお兄さんの問題意識の高いこと。日本の人みんながお兄さんとキヌ枝さんみたいに問題意識を持って生活できたら、日本の未来は明るくなるんじゃないかと思う。
午後は、更に奥の集落まで散歩に行くことにした。キヌ枝さんの家の先に一軒家があってそれからしばらく人家がない。山間を川が流れ、それに沿って道あり、川と山・川と道の狭い土地に田畑がある。そんなところをぶらぶら歩く。うぐいすの声がひっきりなしに響く。道の脇の斜面にスミレの群れが咲いている。山の斜面からは水がしみ出て、至る所で小さな流れを作っている。水が、豊かなところだと思った。だから、五泉を吹く風は水をたっぷり含んでひんやりと気持ちいい。地名も「五泉」。5つの泉。あちらこちらから水が湧き出ているこの地域に何てぴったりな名前なんだろう。奥の集落の家が現われるあたりまで来たら、もと来た道を引き返した。
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夕方、また夕食前にゆっくりと五右衛門風呂に入る。今日は、竹材を焚いてお湯をあっためた。ぱちぱち燃える火で焚いたお風呂は本当にいいもんだ。
今夜の夕食は焼肉。たれにじっくり浸けておいた鶏肉を野菜と一緒に焼きながら食べた。食べた食べた。もう、おなかいっぱい!
夕食の後は、キヌ枝さんの昔の写真を見せてもらった。少しセピア色の写真が物語る昔の出来事。キヌ枝さんも亡くなった旦那さんやお義母さんにも、お兄さんにもキヌ枝さんの子供たちにも、そしてこの家と土地にもいろんな歴史があったのだ。
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■キヌ枝さんと玄関で
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●2002年4月5日晴れ
熟睡してしまった。今日も鳥の声で目が覚める。
朝食を食べて、午前中は辺りを散策してぶらぶらする。裏の畑から見下ろす里の景色が本当に気に入ったので、スミレやタンポポを踏まないように気をつけながら腰を下ろして下界をぼーっと眺める。この段々畑の下にキヌ枝さんの家があって、大きな家の木があって、その下に田畑があって、川が流れていて、山に囲まれていて・・・本当に落ち着く景色。さっきから鳥が鳴きながら飛んできては畑の木に止まって、また楽しそうに飛んでいく。空を見上げれば、大きな鷹の類が円を描いて旋回している・・・。
今日の午後、ここを発つからこの眺めもこれが見納めだ。(もちろん、また来るつもりだけど。予定は未定だしね。)
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家の下方、川べりの畑でキヌ枝さんが畑作業をしていたので少し邪魔しに行った。キヌ枝さんは、畑作業をするときのお供であるラジオを鳴らしながら畑で働いていた。
畑に出ることが大好き!百姓が大好き!と言うキヌ枝さん。「百姓って、いい言葉ですよね。たくさんの姓
(かばね)を持つっていう意味だから。」私が言うと、「そうでしょう?」とキヌ枝さん。そして、キヌ枝さんちの裏山を指差して、「あそこに松の木があるでしょう?あそこでね、昔は松茸がとれたのよ。」「ええ、松茸が?!」
昔はざるにいっぱい松茸が取れて、松茸なべにして食べたのだという。でも、今はそこまで行くのも大変になってしまったし、何より山の管理がされなくなっているから、もう松茸自体生えてないだろうと言った。残念。
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■昭和28年頃作られたミノを着て
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お昼を食べたら、塩見さんがまた迎えに来てくれた。何でもない山の恵みや自然にどっぷりと浸かることで都会っ子の私は本当に癒される。今度は、山菜取りや夏の蛍を見に来たい。ちょっと行ったところにある綾部温泉や国宝の二王門も見に行きたい。そして、何よりまたキヌ枝さんとおしゃべりをしに来よう。
私が去って行く五泉の真っ青な空を鷹がゆうゆうと旋回していた。
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●堀内美緒さんのプロフィール:
1980年、北海道生まれ。小中高校時代を茨城県つくば市で過ごす。
2002年春から、京都大学農学部環境デザイン学4回生。
趣味は旅、読書、美術館・史跡および本屋めぐり。
初対面の人に必ず高いですね、と言われる身長は173cm。大学に入ってようやく止まりました。
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芝原キヌ枝さんの「素のまんま」
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| 都会の方に自宅を開放し、「素のまんま」の自分になれる、ほっとできる時間・空間を提供されている芝原キヌ枝さんのホームページです。ご子息の徹さんが帰省の度に撮っておられた写真を添えられ、素敵なホームページをつくられ、お母さんにプレゼントされました。キヌ枝さんには照れくさくて、内緒だったようです!すてきな贈り物ですね!みなさま、ぜひ訪問ください! |
芝原キヌ枝さんの「素のまんま」URL
http://shibaharatoru.at.infoseek.co.jp/
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